「最期をどう迎えるか ― 100人いれば100通りの看取り」シリーズ

前の記事で、「家で看取ると決めても、途中で選び直していい」と書きました。
では、実際に家で看取るとなったら、何が必要なのでしょうか。
訪問診療、訪問看護、介護用ベッド、24時間の連絡体制。そういう説明は、いろいろなところで読めます。
この記事では、ケアマネジャーとして私が実際にやっていることを書きます。
この記事は、医療的な処置や症状の説明をするものではありません。実際の医療・ケアの内容については、主治医や訪問看護師にご相談ください。
在宅での看取りは、始まり方もそれぞれです
「家で看取る」といっても、みんなが同じところから始まるわけではありません。
私が関わってきた中では、大きく分けて3つの入り方があります。
病院から自宅へ戻る
治療を続けてきた方が、最期の時間を家で過ごすために退院してくる。
施設から自宅へ戻る
施設で暮らしていた方が、本人や家族の希望で自宅に帰る。
自宅での生活を続けながら、看取りへ移る
ずっと家にいた方が、状態の変化とともに看取りの時期に入っていく。
この3つは、同じ「在宅看取り」でも、まったく違います。
私が一番多く関わってきたのは、病院から自宅へ戻るケースです。
「はじめまして」のときには、もう話ができない
病院から戻るケースには、ひとつ特徴があります。
多くの場合、その方は私が以前から担当していた方ではありません。
病院の相談員や、地域包括支援センターからの紹介で、はじめてお会いすることになります。
そして、お会いしたときには、すでに体調を崩されていて、ゆっくりお話しできる状態ではないことがほとんどです。
関係ができていない。
本人から直接、希望を聞くことも難しい。
それなのに、残された時間の過ごし方を考えなければならない。
ここが、私にとって一番難しいところです。
だから、写真を見せてもらいます
そんなとき、私がお願いしていることがあります。
「若いころや、お元気だったころのお写真を見せてもらえませんか」

ご家族はたいてい、少し不思議そうな顔をされます。介護の相談に来た人が、なぜ昔の写真を、と。
でも、この時間がとても大事なんです。
写真を見ると、その人が見えてきます
病気になると、多くの方は痩せます。ベッドで横になっている姿しか知らない私には、その方がどんな人だったのか分かりません。
でも、写真を見せてもらうと、いろいろなことが分かります。
とてもきれいな方だったんだな。
かわいらしい笑顔の方だったんだな。
体育会系で、かっこいい人だったんだな。
それを知っているかどうかで、私たち支援する側の声のかけ方が変わります。
そして何より、ご家族が写真を出しながら昔の話をしてくださると、ご本人がいい表情をされるんです。
自分が大切にしてきたことを、誰かが知ろうとしてくれている。それが伝わるのだと思います。
実際に、プランが変わります

写真や昔の話から分かったことで、できることがあります。
〇ピンクが好きだったと分かれば、ピンクの寝具や衣類をご提案する。
〇大切に育ててきたぶどう棚が見えるように、ベッドの位置を変える。
〇庭にいる愛犬が見える向きに、部屋の配置を考える。
大きなことではありません。でも、その人の時間は確実に変わります。
ご家族は、混乱していたり、動揺していたりします。
そこまで気が回る状態ではないことのほうが多いです。
だから、そこは私たちが考える。それが仕事だと思っています。
「この情報、必要ですか?」と聞かれることがあります
正直に書くと、こういう質問を受けることもあります。
「若いころの話とか、好きだったこととか……それ、必要なんですか?」
怪しまれているな、と感じることもあります。介護保険の手続きに、なぜそんなことを聞くのか、と。
そういうとき、私はこうお伝えしています。
「お母さまの、輝いていた時期や好きだったことを知りたいんです。
そして、人生に寄り添いたいと思っています。」
そうお話しすると、「ありがとうございます」と涙を流されるご家族もいます。
目の前の病状や、これからのことで精いっぱいになっていると、その方が元気だったころの姿にまで、なかなか思いを巡らせられないことがあります。
でも、その方には、生きてきた時間があります。
医療のことは、専門職に任せます
誤解のないように書いておきます。
痛みの緩和も、清潔を保つことも、とても大切です。それがなければ、穏やかな時間は過ごせません。
でも、そこは医師や看護師の専門です。私が口を出すところではありません。
では、ケアマネジャーは何をするのか。
その人がどんな時間を過ごしたいのかを知る。
それを関わる人たちに伝える。
そして、できるかぎり実現する。
どこで過ごすのが好きなのか。どんな音楽が好きなのか。誰と一緒にいたいのか。
情報を集めて、共有して、希望に近づける。それがケアマネジャーの役割だと、私は思っています。
家族のみなさんにお願いしたいこと
もし、ご家族の在宅看取りが始まって、担当のケアマネジャーから昔の話を聞かれたら。
どうか、話してあげてください。
どんな仕事をしていたか。何が好きだったか。どこへ行くのが楽しみだったか。犬を飼っていたか。庭で何を育てていたか。
手続きのために聞いているのではありません。
残された時間を、その人らしく過ごしてもらうために聞いています。
そして、写真があれば見せてください。言葉で説明するより、ずっと早く伝わります。
在宅看取りに必要なもの
制度の説明としては、こういうものが必要になります。
- 訪問診療など、在宅で診療を受けられる体制
- 訪問看護
- 介護用ベッドなどの福祉用具
- 必要に応じて、訪問介護や訪問入浴
- 夜間や急変時に、誰に連絡するのかを確認しておくこと
こうしたサービスや支援については、病院の相談員や医療職とも連携しながら、担当のケアマネジャーが一緒に調整していきます。ご家族だけで、すべてを一から探さなければならないわけではありません。
そのうえで、私がもうひとつ必要だと思っているのが、その人を知ることです。
どちらか一方では足りません。
医療とケアが整っていても、その人らしくない時間になってしまうことがあります。逆に、気持ちだけあっても、痛みが取れなければ穏やかには過ごせません。
どれくらいの時間があるのかは、分かりません
最後に、正直なことを書いておきます。
「あと、どれくらいでしょうか」
ご家族から必ず聞かれることです。でも、私には分かりません。
医師から見通しを説明されることはありますが、実際にどのくらいの時間になるのかを正確に予測することは難しいものです。
私がこれまで関わってきた中では、こうでした。
家に戻られた翌日に亡くなった方もいます。
半年、家で過ごされた方もいます。
3年たっても、お元気な方もいます。
本当に、人それぞれです。
だから、すぐ動くし、長くなる前提でも考える
短いかもしれないから、私はできるだけ早くその方のことを知ろうとします。写真を見せてもらうのも、昔の話を聞くのも、間に合わないことがあるからです。
その一方で、長くなる可能性も考えます。
「最期だから」と思って、ご家族が無理をされることがあります。仕事を休む。睡眠を削る。それが数日なら持ちこたえられても、半年、1年となると、そうはいきません。
だから、始まった時点で、ショートステイやヘルパーなど、その方の状態に応じて利用できる支援を検討しておく。ご家族が休める方法も、一緒に考えておきます。
「そんなの使わなくても大丈夫です」と言われることもあります。
それでも、選択肢として用意しておきます。
それでも、できることはあります

1日なのか、3年なのか。それは分かりません。
でも、ぶどう棚が見えるようにベッドを動かすことはできます。
ピンクの寝具に変えることもできます。
好きだった音楽を流すこともできます。
看取りというと、どうしても「亡くなるまでの時間」を考えてしまいます。
だから私は、「どう亡くなるか」だけではなく、「最後まで、どう生きるか」を一緒に考えたい。
1日でも、半年でも、3年でも。
その人の人生は、最期の瞬間まで、その人のものだから。





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