「家では難しい」と言われた。それでも孫の声が聞こえる家に帰りたかった

看取り

「最期をどう迎えるか ― 100人いれば100通りの看取り」シリーズ

「家では難しいと思います」

通っていた大きな病院で、そう言われた方がいました。

血液の病気で、定期的に輸血を受けていた方です。

体力的に、もう通院は厳しくなっていました。

それでも、ご本人にははっきりした希望がありました。

最期は、家で過ごしたい。
でも、できるだけ輸血は続けたい。

理由を聞いて、私はどうにかしたいと思いました。

個人が特定されないよう、事例の一部を変更しています。また、在宅での医療については、実施できる条件が細かく定められています。実際の判断は必ず主治医にご相談ください。

孫の声が聞こえる場所にいたい

その方が家を希望された理由は、はっきりしていました。

お孫さんの声を、日常の中で聴きたい。

面会の時間に会うのではなく、生活の中で聞こえてくる声。

その中にいたい、と。

病院での面会は、決められた時間の、決められた場所です。そこでは「日常」になりません。

家に帰れば、隣の部屋から声が聞こえる。
走り回る音がする。
呼ばれれば返事ができる。

その方が望んでいたのは、そういう時間でした。

「家では難しい」は、間違いではありません

先に書いておきます。

病院が「難しい」と言ったことを、私は責めるつもりはありません。

輸血は、自宅で気軽にできるものではないからです。

輸血では、体調が急に変わることもあります。

病院とは違い、在宅では緊急時にどう対応するのかも含めて、あらかじめ体制を整えておく必要があります。

専門職として「難しい」と伝えるのは、当然のことだと思います。

でも、私が引っかかったのはそこではありませんでした。

ご本人の希望が、そこで止まってしまうことです。

電話をかけ続けました

私がしたことは、単純です。

近隣の訪問診療のクリニックに、片っ端から電話をかけました。

「在宅で輸血をしていただくことは可能でしょうか」

できないと言われることが続きました。

それでもかけ続けて、それから、ケアマネジャー仲間にも聞きました。

この仕事をしていると、横のつながりができます。

他の地域のケアマネジャー。
以前、一緒に担当した人。
研修で知り合った人。

見つかったのは、そのつながりからでした。

あるケアマネジャーが、対応してくれる可能性のある先を教えてくれました。

在宅で輸血をするということ

在宅での輸血は、実際に行われています。

日本輸血・細胞治療学会にも「在宅赤血球輸血ガイド」があり、対象となる状態や過去の輸血歴、輸血による副作用への対応、緊急時の体制などについて示されています。

ただし、希望すれば誰でも自宅で輸血できるわけではありません。

本人の状態やこれまでの輸血歴、医療機関の体制などを確認したうえで、医師が判断します。

地域によって、対応できる医療機関も異なります。

私が担当した方の場合は、病院とのつながりを保ちながら、訪問診療と訪問看護が連携することで、在宅での輸血を続けることができました。

治療をあきらめて帰るわけではありません

誤解されやすいところだと思います。

「家に帰る」というと、治療をすべてやめることだと思われがちです。

でも、そうとは限りません。

病院で専門的な治療を受けながら、日常の体調管理は在宅の医師に診てもらう。そんなふうに、病院と在宅医療の両方につながりながら暮らしている方もいます。

この形には、体力の面でも大きな意味があります。

ちょっとした熱が出た。
風邪のような症状がある。
どこかが痛い。

そのたびに大きな病院へ行くと、移動だけでも大変なうえ、長い待ち時間があります。

診察を受ける前に、体力を使い果たしてしまう。

弱っている方にとって、これはかなりの負担です。

そういうときに、在宅の医師に診てもらえる。それだけでも、大きな病院まで出向く負担を減らせることがあります。

この方も、「家で過ごしたい」と「できるだけ輸血を続けたい」のどちらかを、最初からあきらめたわけではありませんでした。

その方は、家で最期を迎えました

協力してくれる訪問診療の先生と、訪問看護が見つかりました。

その方は、家に帰りました。

そして、希望していたとおり輸血を続けながら、家で過ごしました。

お孫さんの声が聞こえる場所で。

静かに、最期を迎えられました。

「無理」と言われたときに

病院から「家では難しい」と言われることもあります。

それは、安全面や必要な医療体制を考えたうえでの判断です。

ただ、そこで終わりにしなくてもいい場合があります。

もし、ご本人に「家に帰りたい」という気持ちがあるなら。

担当のケアマネジャーに、そのまま伝えてください。

「病院では難しいと言われました。でも、本人は家に帰りたいと言っています」

必ず実現できるとは限りません。条件が整わないこともあります。

それでも、探してみることはできます。

私がしたのも、電話をかけたことと、仲間に聞いたことだけです。

なぜ家に帰りたいのかを、聞いてほしい

最後に、これを書いておきたいです。

「家に帰りたい」という言葉だけでは、分からなかったことがありました。

なぜ家なのか。家で何をしたいのか。

その方の場合、その先にあったのは「孫の声を日常の中で聴きたい」という願いでした。

そこまで聞かせてもらえたからこそ、何を大切にして支援すればいいのかが、私にも見えてきました。

なぜ家なのか。家で何をしたいのか。

そこを、私たちに聞かせてください。

「家がいい」という一言の向こうに、その人が最後まで大切にしたい暮らしがあることがあります。

【参考】
・日本輸血・細胞治療学会「ガイドライン」

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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