「最期をどう迎えるか ― 100人いれば100通りの看取り」シリーズ

家で看取ると決めたあと、多くのご家族が不安に思うことがあります。
「夜中に何かあったら、どうすればいいんですか」
これは、必ず聞かれます。
今回は、その連絡先の話を書きます。
この記事は、在宅療養中の一般的な流れをまとめたものです。実際の連絡先や対応は、状態や地域、契約している事業所によって異なります。必ず担当のケアマネジャーや主治医、訪問看護にご確認ください。
まず、緊急時の連絡先を確認しておいてください
在宅で看取りをする場合、状態が変わったときに誰に連絡するのかを、あらかじめ決めておくことが大切です。
私が関わってきたケースでは、24時間対応の訪問看護が入っている場合、まず訪問看護に連絡する体制をとることが多くありました。
ご家族が異変に気づく
↓
訪問看護に連絡する
↓
看護師が状況を確認する
↓
必要に応じて訪問したり、主治医と連携したりする
ただし、これはすべての方に共通する連絡方法ではありません。
誰に、どの番号へ、どんなときに連絡するのか。
看取りが始まるときに、主治医や訪問看護から説明を受けて、ご家族で共有しておいてください。
救急車を呼ぶかどうかも、先に決めておく

ここは、はっきり書いておきます。
訪問看護は、救急の代わりではありません。
24時間連絡が取れるといっても、看護師が常にそばにいるわけではありません。
電話をしてから到着するまでには、時間がかかります。
そして、
「看取りだから救急車を呼んではいけない」ということでもありません。
一方で、看取りの方針が決まっている場合には、
どのような変化なら訪問看護や主治医へ連絡するのか。
どのような場合に119番するのか。
これを、あらかじめ医療職と確認しておくことが大切です。
実際に急変したときに迷わないよう、「まず誰に連絡するのか」「どんな場合に119番するのか」まで、事前に確認しておいてください。
そして
明らかに緊急性が高く、救命のために一刻を争う場合は119番してください。
夜中に、先生は来てくれるのか
これも、よく聞かれます。
訪問診療の体制は、事業所によってさまざまです。
医師が数人いて交代で対応しているところもあれば、
先生が一人で診ているところもあります。
夜中や休日に、医師がすぐに来られないこともあります。
そのため、夜間に状態が変わったとき、誰に連絡し、どう対応するのか。
そこを事前に確認しておくことが大切です。
24時間対応の訪問看護が入っている場合には、電話で状況を確認します。
そのうえで、必要に応じて訪問したり、主治医と連携して対応したりします。
「夜中に先生が来られないときは、どうなるんですか」
これも、看取りが始まるときに聞いておいてください。
私が経験した、たった1件のこと
ケアマネジャーとして20年、これまで100件近い在宅での看取りに関わってきました。
そのなかで、救急搬送になったのは1件だけです。
その1件には、はっきりした理由がありました。
これから体にどんな変化が起きていくのか。
その説明が、ご家族に届ききっていなかったのです。
説明そのものは、されていたはずです。
でも、頭に入っていなかった。あるいは、聞いたときには実感がわかなかった。
そうして、目の前で実際に状態が変わった。
苦しそうに見えた。どうしていいか分からない。それで、これまでお世話になった病院に頼りたくなった。
これは、ごく普通の感覚だと思います。
ご家族が悪いわけではありません。
「何が起きるか」を先に聞いておいてください
だから私が一番お伝えしたいのは、連絡先を覚えることではありません。
これから何が起きるのかを、先に聞いておいてほしいということです。
看取りの時期には、体にいくつかの変化が現れます。
それを知っていれば、実際に起きたときに「聞いていたことだ」と分かります。
知らなければ、驚きます。そして、慌てて電話をかけることになります。
説明をしてくれるのは、主治医や訪問看護です。
主治医の指示を受けて、訪問看護が説明することが多いです。
在宅医より訪問看護のほうが関わる時間が長いので、そのほうが自然な場合が多いのだと思います。
説明を受けても、不安になることがあります
誤解のないように書いておきます。
私が関わってきたケースでは、主治医や訪問看護からご家族へ、これから起きることについて説明されています。
それでも、説明が十分に届ききらないことがあります。
不安なときに聞いた話は、頭に入りません。
聞いたつもりでも、覚えていないことがあります。
実際にその場面が来るまで、実感としては分からないこともあります。
だから、何度でも聞いてください
同じことを、何度聞いてもいいんです。

「前にも聞きましたよね」と思われるかな、と気にしなくて大丈夫です。
むしろ、繰り返し聞いてもらえると、こちらにも分かることがあります。
このご家族は、とても不安を感じている。
不安が強すぎて、説明が入っていかない状態かもしれない。
そう分かれば、訪問看護、訪問診療、ケアマネジャー、ヘルパー。関わる全員でその情報を共有します。
そして、どう伝えたらいいか、どう支えたらいいかを考え直します。
聞いてもらえないと、そこに気づけません。
だから、不安なことや怖いと思っていることを、遠慮せずに話してください。
ネットだけでは、その人の答えは分かりません
看取りに至った病気や、その方の状態によって、これから起きる変化は違います。
同じ病気でも、すべての人に同じ経過が起きるわけではありません。
ネットで一般的な経過を知ることはできます。
でも、目の前のその方に、これから何が起きるのかをネットだけで判断することはできません。
だからこそ、日頃からその方の状態を見ている主治医や訪問看護に聞いてください。
不安なことも、私たちに教えてください
ここが、この記事で一番書きたいところです。
私たち支援する側は、看取りの場面を何度も見ています。
だからこそ、初めてのご家族が、どこで不安になっているのかに気づけないことがあります。
一度説明をしていることで、「分かってもらえた」と思ってしまうこともあります。
でも、ご家族にとっては初めてのことです。
説明を聞いても、実際に目の前で状態が変われば怖くなる。
前に聞いたことでも、もう一度確認したくなる。
それでいいんです。
何が分からないのかも、分からない。
だから、こうしてほしいんです。
困ったこと、迷ったこと。
ちょっとした不安や、小さな変化。
すぐに相談してください。
「前にも聞いたから」と遠慮しなくて大丈夫です。
むしろ、同じことを何度も聞いてもらうことで、私たちは気づくことができます。
「まだ不安が強いんだ」
「もう一度、伝え方を考えよう」
こんなことでも、伝えてください
「小さな変化」と言われても、何を言えばいいのか分からないと思います。
たとえば、こういうことです。
- 昨日より、呼吸が浅い気がする
- 昨日より、呼吸がゴロゴロしている
- 一日中うとうとしている、眠る時間が長くなった
- 呼びかけへの反応が、前より鈍い気がする
- 手足の先が冷たい
- しかめっ面をしていることがある
- 唇や指先の色が、いつもと違う気がする
「気のせいかもしれないけど」で構いません。
むしろ、普段からそばにいるご家族だからこそ気づける変化があります。

私たちは、訪問したときの姿しか見ていません。
「昨日と比べてどうなのか」「いつもと何か違う」という変化は、普段からそばにいる人だからこそ気づけることがあります。
「なんとなく、いつもと違う」
それで十分です。理由が説明できなくても、そのまま伝えてください。
ご本人が自分の状態を言葉で伝えにくくなったとき、
そばにいるご家族の気づきは、状態を知るための大切な手がかりになります。
苦しくないか。痛くないか。
いつもと違う様子を教えてもらうことで、私たち支援者も状態を考える材料が増えます。
そして、それが分かれば、できることがあります。
少しでも苦痛をやわらげ、穏やかに過ごしてもらうために何ができるかを、医療職と一緒に考えることができます。
聞いておきたいこと
在宅での看取りが始まるとき、確認しておくといいことを挙げておきます。
- 夜間や休日は、どこに連絡すればいいのか
- 電話をしたら、どれくらいで来てもらえるのか
- これから、どんな変化が起きていくのか
- そのとき、家では何ができるのか
- どういう状態になったら、救急車を呼ぶべきなのか
最後の項目は、聞きにくいかもしれません。
でも、ここを決めておかないと、その場で迷うことになります。
連絡先は、貼っておいてください
ひとつ、現実的なお願いです。
連絡先は、電話のそばや冷蔵庫など、すぐ目につく場所に貼っておいてください。
慌てているときほど、探す時間がありません。
そして、ご家族全員で共有してください。
その場にいるのが、いつも同じ人とは限りません。
関係ができていると、変わります
100件近く関わってきて、思うことがあります。
訪問看護との関係が築けていると、ご家族は電話をかけやすくなります。
「こんなことで電話していいのかな」と思わずに済む。
だから、小さな変化のうちに相談できる。
私が関わってきたケースでも、そうやって早めに相談できる関係があることは、ご家族が慌てずに対応することにつながっていたように思います。
関係を作るのは、支援者側の仕事です。
でも、ご家族から話しかけてもらえると、その関係はずっと早くできます。
不安なことがあったら、遠慮なく言ってください。
それが、安心して家で過ごすための、いちばん確かな準備だと思っています。
最後に
この記事をここまで読んでくださったあなたは、今、大切な人の最期の時間を前にして、不安な気持ちでいるのかもしれません。

何が起きるのか分からない。
自分にできるのだろうか。
これでいいのだろうか。
そう思うことがあったら、一人で抱え込まず、そばにいる支援者に何度でも聞いてください。
怖いときは、「怖い」と言っていいんです。
分からないときは、「分からない」と言っていいんです。
看取りの時間は、亡くなるまでの時間だけではありません。
声をかけたり、手を握ったり、好きだった音楽を流したり。
いつもの家で、いつもの家族の声を聞きながら過ごす時間も、その方の人生の大切な時間です。
どうか、その方にとっても、ご家族にとっても、
人生の最期の時間が、その人らしく、穏やかで、大切な時間になりますように。






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