
私は最初、ぎょっとしました。
ケアマネジャーとして、初めて見守りカメラのあるお宅を担当したときのことです。
玄関を上がってリビングに通されたとき、棚の上に小さな白いカメラが置かれていました。
レンズがこちらを向いている。
(え、ずっと映ってるの?)
(プライバシーは……いいのかな)
正直に言うと、それが最初の感想でした。
介護の仕事をしていると、「その人らしい暮らしを支える」という言葉を何度も使います。
その暮らしを、離れた場所から誰かがずっと見ている。
それは本当に、この方のためなのだろうか。
今、私は自分の母の部屋に、カメラを2台置いています。
反対だった私が、なぜそうしたのか。
そして今も何に迷っているのか。
今日はその話を書きます。
ご本人は、嫌がっていなかった
最初の訪問のあと、私はご本人にそれとなく聞いてみました。
カメラのこと、どう思っていますか、と。
返ってきた言葉に、私は少し驚きました。
「娘が見ていてくれるから、安心だよ」

嫌がるどころか、心強く思っていらっしゃったのです。
娘さんは日中お仕事をされていて、家にはいません。
その方にとってカメラは、監視の目ではなく、離れていても娘さんとつながっている印だったのだと思います。
私が抱いた「かわいそう」という感覚は、
もしかしたら、ご本人ではなく私の側の思い込みだったのかもしれない。
そう気づかされた、最初の出来事でした。
真夏の午後、そのカメラが助けた
決定的だったのは、そのあとに起きたことです。
とても暑い日でした。
その方が、家の中で転倒されたのです。
自分では起き上がれず、床に倒れたまま。
声を出しても、誰にも届きません。
気づいたのは、仕事中の娘さんでした。
職場で休憩中に、なんとなくスマホでカメラを開いた。
そこに、床に倒れている母親の姿が映っていた。
娘さんはすぐに職場を出て、急いで帰宅されました。
大事には至りませんでした。
でも、私はケアマネジャーとして、この「もし」をどうしても考えてしまいます。
もしカメラがなかったら。
娘さんが帰宅する夕方まで、誰にも気づかれないまま、何時間も床に倒れていたはずです。
真夏の室内で、水分も取れないまま。
重度の熱中症になっていた可能性は、じゅうぶんにありました。
高齢者の転倒は、倒れた瞬間だけが危険なのではありません。
倒れたまま動けない時間が長くなること。
脱水、熱中症、低体温、そして命に関わる状態へ。
「気づけるかどうか」で、結果はまったく変わってしまいます。
それでも、割り切れなかった
ただ、それでも私の中の抵抗は、すぐには消えませんでした。
結果が良かったからといって、見られ続けることが正しいとは限らない。
今回はたまたま助かっただけかもしれない。
そんなふうに、まだどこかで身構えていたのだと思います。
その後も、カメラのあるご家庭を何件か担当しました。
そして、少しずつ考えが変わっていきました。
決定打になったのは、まったく別の出来事でした。
いなくなった財布と、疑われたヘルパーさん
在宅介護の現場で、必ずと言っていいほど起こることがあります。
「財布がない」
「通帳がなくなった」
認知症の症状のひとつで、大切なものをご自分でしまい込み、その場所を忘れてしまう。
ご本人にとっては「盗まれた」としか思えないので、とても不安になられます。
そしてここが本当につらいところなのですが
家に出入りしている人が、疑われてしまうのです。
そのお宅でも、同じことが起きました。
ご家族の中に、ヘルパーさんを疑う空気が生まれてしまった。
ヘルパーさんは、何も言えません。
「やっていません」としか言えない。
やっていないことを証明する方法が、どこにもないからです。
こういうとき、多くの場合は事業所の変更になります。
利用者さんは慣れた人を失い、ヘルパーさんは疑われたまま去っていく。
誰も幸せにならない終わり方です。
私はこれまで、何度もその場面を見てきました。
でも、そのお宅にはカメラがありました

録画機能のあるカメラでした。
ご家族と一緒に映像を確認すると、そこにはご本人が財布を手に持って、棚の奥にしまい込む様子がしっかり映っていたのです。
財布は、そのとおりの場所から出てきました。
ヘルパーさんの疑いは晴れました。
ご家族は謝り、ヘルパーさんは涙ぐんでいました。
そしてここが一番大切なところなのですが
その方とヘルパーさんの関係は、その後もずっと続いたのです。
慣れた人が、そのまま来てくれる。
それが在宅介護にとってどれだけ大きいことか、現場にいる方ならわかっていただけると思います。
このとき、私の中ではっきりしました。
見守りカメラは、親を見張るための道具ではない。
ご本人を守り、ご家族を守り、そして支えてくれている介護職まで守ることがある。
「監視」という言葉だけでは、とても足りない。
そう思うようになりました。
そして、自分の母の番が来た
仕事でそう思うようになっても、自分の親のこととなると、また話は別です。
ある日、仕事から帰ると、母のオハナさん(89歳・認知症)が玄関で倒れていました。
声をかけると意識はありましたが、返ってきた声はかすれて、ほとんど出ていませんでした。
自分では起き上がれず、失禁したまま、そこに横になっていました。
おそらく、朝に転んだのだと思います。
私が夕方に帰るまで、ずっとそのままでした。
救急搬送され、脱水と尿路感染がわかりました。
褥瘡(じょくそう)もできていて、そのまま入院となりました。
入院は、1か月に及びました。
病院のベッドで眠る母を見ながら、私が考えていたのは
「朝、家を出るとき、いつもと違うところはなかっただろうか」ということでした。
思い出せませんでした。
いつもどおりの朝だったはずです。
ケアマネジャーとして、私は何百回も「転倒リスク」の説明をしてきました。
その言葉の意味を、私は本当にはわかっていなかったのだと思います。
退院してきた母を迎えながら、私はカメラを買いました。
私自身の安心のため。
そして、オハナさんの安全のため。
その両方でした。
実際、そのあと何度も助けられています。
夜中にポータブルトイレの横で倒れていたのを見つけて、起こしに行ったこともあります。
どちらも、大事にはなりませんでした。
[見守りカメラ映像の写真]
実際の見守りカメラ映像です(マッサージチェアでくつろぐオハナさん)
実際に2年使ってどうだったかは、こちらの記事にまとめました。
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正直に言います。母には伝えていません
ここからが、この記事で一番書きたかったことです。
私はオハナさんに、カメラを置いていることを話していません。
ケアマネジャーとしての私は、知っています。
本来であれば、ご本人への説明と同意が望ましいということを。
もし担当している利用者さんのご家族から「内緒でカメラをつけたいんです」と相談されたら、私はきっとこう言うと思います。
「できればご本人にも、伝えた方がいいと思いますよ」
仕事では、そう言う。
それが正しいと思っているからです。
でも、娘としての私は、言えませんでした。
言えなかった理由
オハナさんはきっと嫌がる。
「監視されている」と感じて、怒るかもしれない。
今のおだやかな毎日が、崩れてしまうかもしれない。
認知症があるので、一度説明しても忘れてしまうかもしれません。
そのたびに驚かせて、そのたびに傷つけることになるかもしれない。
——なんて。
そうやって理由を並べていますが、本当のところは、たぶんこうです。
私は、断られるのが怖かったのだと思います。
「いらない」と言われたら、私は引き下がれない。
それでも付けたい。
だって、あの1か月をもう一度繰り返すことに、私は耐えられないからです。
かすれた声。失禁したままの体。
朝から夕方まで、誰にも気づかれなかった時間。
だったら、最初から聞かないほうが——
そう思ってしまった自分が、たしかにいました。
本人のためだと思っている。
でもそれは、本人が望んだことじゃない。
この矛盾を抱えたまま、私は2年間、カメラを使い続けています。
ときどき、カメラをのぞき込んでいる

ひとつだけ、いつも胸に引っかかっていることがあります。
スマホを開くと、ときどき画面いっぱいにオハナさんの顔が映っていることがあるのです。
カメラを、のぞき込んでいる。
カメラのことは話していないのに、何かが気になるのでしょうか。
じっと、まっすぐこちらを見ている。
わかっているのか、いないのか。
私には、わかりません。
その顔を見るたびに、かわいいなと思うのと同時に、
胸のあたりが、きゅっとなります。可愛いです(笑)
それでも、これが私の答えです
もしこの記事を読んで、「同じように迷っている」という方がいたら。
先に言っておきたいことがあります。
私は「内緒でも大丈夫ですよ」と言うつもりはありません。
ケアマネジャーとしての意見は、今もはっきりしています。
できるかぎり、ご本人に伝えたほうがいい。
説明して、納得していただけたなら、それが一番いい形です。
実際、私が最初に担当したあのお宅では、ご本人が知っていて、そのうえで安心されていました。
「娘が見ていてくれるから」と言えるほうが、きっと幸せです。
そのうえで、こうも思っています。
正解の形にできなかったからといって、
その人が親を大切にしていないわけではない。
迷いながら選んだ人を、責める気にはなれません。
私自身が、そうだからです。
完璧な介護なんて、ない
誰かに「それは間違っている」と言われたら、私は言い返せないかもしれません。
その通りだと思う部分が、自分の中にもあるからです。
でも、迷いながらも「今できること」を選び続けること。
それだけが、私にできる介護だと思っています。
介護には、正解がない問いがたくさんあります。
デイサービスに行きたがらない親を、どこまで説得するのか。
ショートステイに預けることは、見捨てることなのか。
そして、カメラで見ることは、監視なのか。
どれも、教科書には答えが書いてありません。
その家の事情と、その人との関係の中で、決めるしかない。
だからこそ、ひとりで抱えないでほしいと思います。
「カメラを付けたいんですが、どう思いますか」
ケアマネジャーに、そう相談していただいて大丈夫です。
正解を出すためではなく、一緒に迷うために、私たちはいます。
「すぐに見守りカメラを探したい方へ」
私が介護で使うなら、少なくとも「音声・暗視・スマホからの首振り・録画」の4つは確認します。
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