日曜、母の手が震えて食べられなくなった|救急車を呼ぶか迷ったとき訪問看護に電話した話

オハナさんとの日常

ショートステイから帰ってきた日曜、母の手が震えだした

2泊のショートステイから帰ってきた、日曜日の夕方のことです。

夕飯の席で、オハナさん(私の母です)の様子がおかしいことに気づきました。

箸もスプーンも、口まで届かない。手が震えて、途中でこぼれてしまう。

「うまく食べられない。困るじゃんね」

本人は笑っています。話し方はいつもどおりで、呂律も回る。頭が痛いとも言わない。ただ、手だけがおかしい。

明らかに苦しそうだったら、迷わなかったと思います。でも本人は笑っていて、会話も普通で、手だけが言うことを聞かない。

この「よく分からなさ」が、いちばん迷います。

ケアマネの頭と、娘の頭が、別のことを考えていた

私はケアマネジャーです。仕事では何度も、ご家族から「こういうときどうしたらいいですか」と相談を受けてきました。

だから頭の中では、すぐにこう考えました。

——脳の病気だったら、時間が勝負になる。見逃したら手遅れになる。

ところが、まったく別の声が同時に鳴っていました。

——え〜、今から救急外来かぁ……。4時間コースだな。どこに運ばれるんだろう。

日曜日の夕方です。救急車を呼べば、どこの病院に運ばれるか分からない。待って、検査して、帰ってくる頃には何時になっているのか。

正直に書きます。億劫でした。

20年この仕事をしていても、自分の親のこととなると、私はただの娘になります。

専門職としての判断と、疲れた家族の気持ちは、同じ人間の中で平気で矛盾します。介護をしている方なら、この感じ、分かってもらえるんじゃないでしょうか。

わが家には、もうひとつ電話をかけられる場所があった

結果として私が最初にしたのは、119番ではなく、訪問看護ステーションへの電話でした。

オハナさんには訪問看護が入っていて、緊急時に連絡できる体制の契約をしています。

介護保険では「緊急時訪問看護加算」といって、利用者や家族から電話などで相談があったときに、常時対応できる体制を評価する仕組みがあります。必要に応じて、予定外の緊急訪問につながる場合もあります。契約のときに説明を受けて、同意して申し込むものです。

緊急時訪問看護加算とは

訪問看護を利用している方が、夜間・休日を含めていつでも看護師に相談できる体制に対する加算です。

「今こんな状態なんですが、どうしたらいいですか」という電話をかけられる先が、契約の時点で決まっている、ということです。

費用や対応の範囲は事業所によって違うので、契約時の書類を一度確認してみてください。

日曜日の夕方でしたが、緊急時の相談先として契約している訪問看護ステーションに、そのまま電話しました。

だって、この緊急時対応のために毎月お金を払っているんです。こういうときに使わなかったら、払っている意味がないですからね。

電話に出てくれたのは、その日の当番の看護師さんでした。状況を説明したうえで、オハナさんが食べている様子の動画と、顔の写真を送りました。

そして、その場で確認するように言われたことがいくつかありました。眉と鼻を触ってもらうこと。目を閉じて両腕をまっすぐ前に出し、下がってこないかを見ること。

これは「こうすれば家で判断できる」というセルフチェックとして書いているのではありません。

その日のオハナさんの状態を、電話の向こうの看護師さんが把握するために指示されたことです。読んだ方がご自宅で自己判断するための方法ではない、というのは、はっきり書いておきます。

「心配なら、病院に行った方がいい」

看護師さんの答えは、「大丈夫です」ではありませんでした。

顔の左右差は見られない。動画で見るかぎり、震えもそこまで強くはなさそう。確認したことにも問題はなさそう。——ただし、心配なら病院に行った方がいい。

ここは正確に書きたいところです。看護師さんは診断をしたわけではありません。診断ができるのは医師だけです。

あの電話でしてもらえたのは、状態を一緒に整理してもらうことと、受診をすすめる助言でした。判断を肩代わりしてもらったわけではないのです。

そして——

病院に行かないと決めたのは、私です。

ケアマネだから正しい判断ができたわけではありません。あの夜、様子を見ることにしたのが正しかったのかどうかは、今でも分かりません。

「1時間おきに起こすからね」「眠れないwww」

その夜は、1時間おきに起こして様子を確認するつもりでした。心配だったからです。

そう伝えたら、オハナさんに言われました。

「眠れないwww そんなに心配しないで大丈夫」

……結局、私は朝まで見に行きませんでした。

翌朝、大きな変化はありませんでした。手の震えも落ち着いていました。

でも、「大丈夫だったから、あの判断が正解だった」とは思っていません。結果が良かったことと、判断が正しかったことは、別の話です。

結局、何だったのかは分かりません

思い返せば、便秘もありました。ショートステイ中は、家にいるときと水分の量が違ったかもしれません。疲れもあったでしょう。

でも、それが原因だったのかは分かりません。断定できることは何もない。

だからこそ、あの時点で「脳じゃないだろう」と自分で決めつけなくてよかったと思っています。

「突然」手が使えなくなったときに、知っておいてほしいこと

日本脳卒中協会によると、脳卒中でもっとも多い症状は片麻痺で、顔の片側や片方の手・足が突然動かなくなります。

手だけ、顔だけということもあります。呂律が回らない、麻痺はないのに急に足元がふらつく、といった形で出ることもあります。

顔(Face)・腕(Arm)・言葉(Speech)の異常が突然現れたら、症状が出た時刻(Time)を確認して、すぐに救急車を呼んでください(ACT FAST)。

頭痛がないから、呂律が回っているから、という理由で脳卒中を否定することはできません。ただし、FASTの症状が全部そろうとは限りません。突然いつもと違う症状が出たときは、自己判断せず、医療機関や救急相談につなぐことが大切です。

また、症状が短時間で消えても安心はできません。一過性脳虚血発作(TIA)の可能性があり、脳卒中協会は「前触れ発作かなと思ったら、様子をみずに、すぐお医者さんに相談」「とくに48時間以内が危険」と呼びかけています。

治まったから大丈夫、ではありません。

出典:公益社団法人 日本脳卒中協会「脳卒中の主な症状」同「動画で学ぶ脳卒中」

わが家がこうだったから、同じ症状なら様子を見ていい——とは、絶対に読まないでください。うちのケースは、たまたまこうだったというだけです。

緊急時の相談先は、緊急事態になってから作れない

この夜に私が改めて思ったのは、そのことでした。

日曜の夕方に「どこに相談したらいいんだろう」と探し始めていたら、私はもっと迷って、もっと動くのが遅くなっていたと思います。

あの電話番号がそこにあったのは、オハナさんが元気なうちに訪問看護と契約して、緊急時の体制について説明を受けて、同意していたからです。

家族だけで抱えて判断しなくていい。

迷ったときに、状態を一緒に整理してくれる専門職につながっていること。これは思っている以上に大きいです。

もし今、在宅で介護をしていて、夜間や休日に連絡できる先がすぐ思い浮かばないなら、次にケアマネジャーと会うときに聞いてみてください。

「うちは何かあったとき、どこに電話できますか」

それだけで十分です。

介護保険には、訪問看護の緊急時対応など、在宅生活を支えるための仕組みがあります。自分の家の場合は何が使えるのか、元気なうちにケアマネジャーと確認しておくことをおすすめします。

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