母の「わがまま」は「ゆずれない条件」だった。ケアマネ娘、執念の電話作戦で見つけた奇跡の場所

オハナさんとの日常

お母さん、そろそろお友達ができるような場所に行ってみない?デイサービスっていうところなんだけど

えぇっ、向かいのさきこさんが行っているところ?そんなところ行きたくないわ。年寄ばかりでしょ?家でテレビを観ているのが一番いいわ

(オハナさんも十分高齢者よ・・教科書通りの返答きたわw)

じゃぁ、どういうところなら行ってもいいの?

んんん……。みんなでお風呂に入るのは嫌だわ。一人で入りたいし、それに、できることなら一番に入りたいの。たくさん人がいるのも嫌だし、寒いところもいや、ぼーっと座っているのも嫌。

(……わがまま!と思わず心の中で叫んじゃったけど、それが本音なんだよね。)

おはなさん、本音を言えるのはいいことだよ!個浴(一人でお風呂)があって、順番も相談できるデイサービス……プロのケアマネ娘なら、きっと見つけ出せるはずさ。聞いてみよう!

お母さんの希望は全部わかった。個浴、そして一番風呂……。普通なら『そんなの無理よ』って言われるかもしれないけど、私はプロだ。お母さんのプライド、私が守ってみせる!

まあ……そんなに一生懸命、私のために探してくれたのね。そこまで言うなら、一度行ってみようかしら。

ケアマネとして、三本指に入るほどよく受ける相談がある。

「デイサービスなんか、絶対行きたくないって言うんです……」

家族は運動のため、楽しみのため、そして正直に言えば自分の時間を確保するためにも、デイサービスを使ってほしい。でも当の本人は頑として首を縦に振らない。

これ、めちゃくちゃあるある。

うちのオハナさんも、最初はそうでした。


「お母さん、そろそろお友達ができるような場所に行ってみない? デイサービスっていうところなんだけど」

切り出した瞬間、オハナさんの眉がぴくっと動いた。

「えぇっ、向かいのさきこさんが行っているところ? そんなところ行きたくないわ。年寄りばかりでしょ? 家でテレビを観ているのが一番いいわ」

(オハナさんも十分高齢者なんだけどなぁ……。教科書通りの返答、きたわw)

心の中でひっそりとツッコみながら、私は続けた。

「じゃぁ、どういうところなら行ってもいいの?」

すると、オハナさんは少し考えてから、堰を切ったように話し始めた。

「んんん……。みんなでお風呂に入るのは嫌だわ。一人で入りたいし、それに、できることなら一番に入りたいの。たくさん人がいるのも嫌だし、寒いところもいや、ぼーっと座っているのも嫌」

(……わがまま!と思わず心の中で叫んじゃったけど、でもこれ、全部本音だよね。)

デイサービス拒否の理由を聞くと「行きたくない」の一言で終わってしまうことが多い。でも「どういうところなら行けるの?」と聞いてみると、こんなふうに本音がぽろぽろ出てきたりする。

これ、ケアマネあるあるです。


「わがまま」じゃなくて、「条件」だ

正直に言う。最初は「これは無理だな」と思った。

個浴(一人で入るお風呂)があって、しかも一番風呂の相談ができて、小規模で、温かくて、退屈しない場所……。

でも、娘としての私が「無理」と思っても、ケアマネとしての私は違う回路が動き始めていた。

オハナさんのわがままを、条件に変換するだけでいい。

「一人風呂が嫌」→ 個浴の設備がある

「一番風呂じゃないと嫌」→ 入浴順の相談に柔軟に対応できる

「大勢は嫌」→ 小規模(10名以下)

わがままってよく見たら、ちゃんと言語化されたニーズなんですよね。


電話作戦、開始

地域のデイサービスリストを広げて、片っ端から電話をかけ始めた。

「個浴(一人で入るお風呂)はありますか?」
「一番風呂の相談はできますか?」

返ってくる答えは、ほとんど同じだった。

「うちは大浴場なんです」
「順番は平等にしておりますので、お約束はできかねます」
「利用者さんが多いので……」

何軒かけただろう。5件? 8件? 電話しながら、正直「お母さん、妥協してよ……」と泣きたくなった。娘モードに逆戻りしている自分に気づきながら、それでも次の電話番号にかけた。

ケアマネとして働いていると、「利用者さんの希望は、できる限り叶えてあげたい」という気持ちが、習い性みたいになっている。たとえそれが、自分の母親のことであっても。

そして、何件目かの電話で、担当者の声のトーンが少し違った。

「……一番風呂の件ですが、他の利用者さんとの兼ね合いになりますが、相談はできますよ」

え。

「利用者さんは女性のみで、10名規模の小さなデイサービスです。お風呂は個浴になっています」

え、え、え。


見学当日

一軒家を使ったアットホームなデイサービスだった。玄関を入ると、どこかのおばあちゃんちに来たみたいな空気がして、オハナさんの肩から、ふっと力が抜けた気がした。

スタッフの方が、にこにこしながら「お風呂、一番にご案内しますよ」と言ってくれた瞬間、オハナさんは小さな声でつぶやいた。

「まあ……そんなに一生懸命、私のために探してくれたのね。そこまで言うなら、一度行ってみようかしら」

その言葉、一生忘れないと思う。

あれから時間が経ち、今ではオハナさんは週4日通っている。「行かなきゃいけない」じゃなくて、「行く日が楽しみ」になっている。


デイサービスを拒否する親を前にして、「わがままだな」と感じることは、決して冷たいことじゃない。私もそう思った。

でも、もしお手上げになりそうだったら、ケアマネジャーに本音をそのまま伝えてみてほしい。「個浴がいい」でも「一番風呂がいい」でも、どんなに細かいことでも。

「わがまま」を「条件」に変えるのが、私たちの仕事だから。

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