「あのエアコン、ついてる?」
「冷蔵庫にアイス入ってる?」
「お母さんのお金、どこ?」
「おやつ、買ってある?」
うちの母は、この4つを何度も聞きます。とくに「おやつ」は、30分おきです。1日に何回答えているのか、ある日ちゃんと数えてみたことがあります。数えなければよかったと思いました。
私はケアマネジャーとして20年、仕事では同じ相談を何度も受けてきました。「同じことを何度も聞かれてつらい」というご家族に、対応の方法をお伝えする側です。
それでも私は、3日に1回くらい怒鳴っています。
この記事では、認知症の家族に同じことを何度も聞かれるときの対応を、ケアマネジャーとしての視点でお伝えします。そのうえで、それでも怒ってしまう日に私自身が何をしているかも、正直に書きます。
認知症で同じことを何度も聞くのはなぜ?「また言ってる」の裏側
同じ質問が繰り返されるとき、本人は答えを聞いたこと自体を覚えていないことがあります。だから本人にとっては、毎回が「初めて聞く質問」になっていることがあります。
そしてもうひとつ大事なのが、質問の中身より、その裏にある気持ちのほうです。
母の質問を並べてみると、よくわかります。エアコン、アイス、お金、おやつ。予定の確認ではありません。暑くないか。楽しみは残っているか。お金はあるか。つまり全部、「自分は大丈夫か」の確認なんです。
本人が確認しているのは、答えではなく安心です。
だから答えを伝えても、安心が届かなければ、また同じ質問に戻ります。
「さっき言ったでしょ」が届かない理由
私も言ってしまいます。「今日もう5回目!」と。
でも、「今日もう5回目!」と言われても、本人にはなぜ怒られているのかわからないことがあります。質問したことを覚えていなければ、突然怒られたように感じて、不安や気まずさだけが残ってしまうこともあります。
では、きつく言えば質問は減るのか。少なくとも、うちの母の場合は減りません。むしろ不安そうな顔になって、また確認してくることがあります。
これは、私が仕事で知っていた知識です。自分の家で、身をもって確認しました。
今日からできる、3つの返し方
難しいことはしません。3つだけです。
① 短く、毎回同じ言葉で
長く説明すると、途中でわからなくなって、また最初の質問に戻ります。伝える情報は1つか2つに絞ります。毎回答え方を考えるのは家族もしんどいので、できるだけ短く、同じ言葉で返すようにします。
② 書いて、見せて、指さす

言葉だけだと残りません。紙、カレンダー、ホワイトボードなど、目で確認できるものを使います。聞かれるたびに口で説明するのではなく、「ここに書いてあるよ」と一緒に見る流れに変えます。ご家族に相談されたときも、私はまずこれをお伝えしています。
③ 先に気持ち、あとから事実
「暑いよね。エアコンついてるよ」
「気になるよね。お金はここにあるよ」
事実だけ返すより、一言だけ気持ちを受け止めてから答えるほうが、結果的に短く済むことが多いです。
| よく聞かれること | 裏にある気持ち | 返し方の例 |
|---|---|---|
| エアコンついてる? | 暑いのが不安 | 「ついてるよ。ランプ、緑でしょ」と一緒に見る |
| アイス入ってる? | 楽しみが残っているか確認したい | 冷蔵庫を一緒に開けて見せる |
| お金はどこ? | なくす不安、取られる不安 | 置き場所を固定し、一緒に確認して戻す |
| おやつ買ってある? | 足りているか、困らないか | 紙に「おやつ 棚の中」と書いて貼る |
正直に言うと、私はいつもこの通りにできているわけではありません。「買ってあるって!たくさんあるでしょ!」と言ってしまう日のほうが多いくらいです。
急に物忘れが増えたとき|ケアマネとして、これだけは言わせてください
ここからが、この記事で一番お伝えしたいところです。
「最近、急に物忘れがひどくなった」というときは、対応を工夫する前に、まず受診してください。
高齢の方は、体の不調をうまく言葉にできないことがあります。暑い、喉が渇いた、痛い、便が出ていない、だるい、熱がある。これらを「具合が悪い」と言えない代わりに、物忘れが増える、同じことを何度も聞く、落ち着かないという形で出てくることがあります。
とくに脱水は、認知機能や意識の状態に影響し、いつもよりぼんやりしたり、混乱が強くなったりすることがあります。水分をとってもらうことは大切です。ただ、その前に確認してほしいことがあります。
こんなときは、工夫より先に受診を
- 数日のうちに、急に様子が変わった
- いつもよりぼんやりしている、うとうとしている
- 昼と夜が逆転してきた
- 急に怒りっぽくなった
- 食事や水分の量が減っている
私は仕事の中で、ご家族の「最近、物忘れがひどくなった気がする」「なんだかいつもと違う」という話から受診につながり、認知症が進んだと思っていたら、体調不良や別の病気が隠れていたという方に何人も会っています。脳梗塞が見つかった方も、がんが見つかった方もいました。
だから私は、ご家族に必ずお伝えしています。「認知症のせい」で片づけないでくださいと。なぜ物忘れが起きているのか、医学的にはっきりさせてから対応を考える。順番はこちらです。
受診のときは、気づいたことを紙に書いて持っていってください。いつから増えたか、どの質問が増えたか、昼と夜で違いがあるか、食事・水分・排泄・睡眠に変化はあるか。このあたりを書いておくと、受診のときに医師へ状況を伝えやすくなります。
家庭の工夫だけでは、限界があります
これもケアマネとして正直に言います。ここまで書いた工夫は、ご家族の消耗を遅らせることはできても、止めることはできません。
同じ質問に答え続ける負担は、外から見えません。体を持ち上げる介助のように目立たないので、ご家族自身も「これくらいで相談していいのかな」と思ってしまいます。でも、1日中誰かの不安に付き合い続ける生活は、確実に人を削ります。
介護保険を使っているなら、担当のケアマネジャーに言ってください。伝え方は、こうで大丈夫です。
「同じことを何日も聞かれて、限界です。日中、私が離れられる時間をつくれませんか」
デイサービスの回数を増やす。ショートステイを使う。必要な身体介護や生活援助があれば、訪問介護を検討する。デイやショートを使えば、ご家族に「誰にも聞かれない時間」が生まれます。この時間があるかないかで、夕方の余裕がまるで違ってきます。
費用が心配なときも、まず言ってください。介護保険には支給限度額があり、増やしたぶん自己負担がどう変わるかは、ケアマネが計算してお見せできます。「増やしたい」ではなく「限界です」と伝えてもらうほうが、私たちは動きやすいです。
介護保険をまだ申請していないなら、まずは地域包括支援センターへ。介護保険の申請や、受診先を含めた今後の相談に乗ってもらえます。
私は3日に1回、怒鳴ります
ここまで偉そうに書いてきましたが、私は怒ります。
数えてみて気づきました。だいたい3日に1回です。母が悪いわけではありません。私に余裕がない日です。仕事で嫌なことがあった日、寝不足の日、自分のことが何もできていない日。そういう日に、5回目の「おやつ買ってある?」が来ると、声が出てしまいます。
よく「深呼吸をして10秒数えましょう」と書いてあります。深呼吸で収まるくらいなら、私はとっくにやっています(笑)。
そんな私が実際にやっているのは、この3つです。
1. 鏡で自分の顔を見る

怒鳴ったあと、洗面所に行って鏡を見ます。ものすごい顔をしています。本当にひどい顔です。あまりにひどいので、ちょっと笑ってしまう。この「笑ってしまう」が大事で、自分と怒りの間にほんの少しだけ隙間ができます。
2. よくしてもらったことを思い出す
今の母ではなく、元気だった頃の母を思い出します。私にしてくれたことを、ひとつだけ。今この瞬間の関係から、これまでの関係に戻る作業です。目の前の「5回目の質問」だけを見ていると、人は簡単に消耗します。
3. 自分が責められる側だったら、と考えてみる
自分ができないことを責められたら。怒られたら。あえて、その気持ちになってみます。母は今、まさにその側にいます。できないことを、毎日誰かに指摘されている側です。
この3つは、心を落ち着ける方法というより、気持ちの置き場所を変える方法です。呼吸ではどうにもならなかったので、こうなりました。
怒鳴ってしまった日の自分を、責めないでください
この記事を読んでいる方の中には、たった今怒鳴ってしまって、罪悪感のまま検索した方がいると思います。
私も怒鳴ります。だから「怒らない方法」を偉そうに書くことはできません。
でも、怒鳴る回数が増えてきたら、それは「もっと優しくしなきゃ」ではなく、今の介護の量ではもうしんどい、というサインだと思っています。
それでも、怒りが自分でも止められないと感じるとき、手が出そうになったことがあるとき、そのときは我慢ではなく、人を入れてください。それは家族の失敗ではなく、必要な判断です。
そして、休むことにも罪悪感を持たないでください。私も同じところでずっと引っかかってきました。
まとめ
- 同じ質問を繰り返すのは、答えではなく安心を探しているから
- 「さっき言ったでしょ」は伝わりにくく、不安や気まずさが残ることがある
- 返し方は「短く・同じ言葉で」「書いて見せる」「先に気持ち」の3つ
- 急に様子が変わったときは、工夫より先に受診。認知症のせいで片づけない
- 家庭の工夫だけでは限界がある。ケアマネや地域包括に「限界です」と伝えていい
- 怒鳴る回数が増えてきたら、「もっと優しくしなきゃ」ではなく、介護の量を見直すサイン
私は今日も、たぶん「おやつ買ってある?」と5回聞かれます。うまく返せる日もあれば、返せない日もあります。それでいいことにしています。
同じ質問に毎日向き合っているあなたが、少しでも休める時間を持てますように。





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