前回の記事で、トイレの便器が真っ赤になった話を書いた。
あのとき確かに感じたのだ。体が何かを訴えている、と。
でも正直なところ、「まさかがん疑いになるとは」なんてこれっぽっちも思っていなかった。
だから3ヶ月後の再受診日、私は「面倒くさいな」と思いながら家を出た。

先生が無口になった
3ヶ月後の受診日も、やっぱり「面倒だな」と思いながらクリニックへ向かった。
またいつもの内視鏡。先生と「仕事忙しいですか?」「何件担当してるんですか?」なんて話しながら、和気あいあいと検査が進んでいた。
そのはずだった。
ふと気づくと、先生が無口になっていた。
画面をちらりと見ると、ぽこっと盛り上がっているところを、先生が入念に撮影していた。以前、胃カメラで良性ポリープを見たことがある。なんとなくそんな感覚で、「あ、ポリープあるんだ」と、そのときはまだ思っていた。
診察室の空気が重かった
診察室に呼ばれた。
先生と看護師さんの空気が、なんとなく重かった。

これね、3ヶ月前にケバケバしていたところがね、ぷくっと盛り上がってるのわかる?これね、取って検査に出したほうがいいのね。

さっき取ってくれたらよかったのに・・・
そう思いかけたところで、先生の説明が続いた。

これはね、大きい病院で手術して取るのですよ。治療しながら検査する感じかな

(……やば。大事になってる)えと……それって、がんということですか

それを否定するための検査だよ

がーん・・・(冗談を言っている場合ではない)
アニメでショックなとき、上から岩がどすんと落ちてくる、あの衝撃。まさにあれだった。
「3泊の入院」と「紹介状」
別室に移り、看護師さんから説明を受けた。
腰椎麻酔で内視鏡を使って腫瘍を取り、検査に出す。
入院は3泊ほど。自分で大きな病院に予約を入れて、紹介状を持参するように、と。
ちょっと怖くなった。いや、だいぶ怖くなった。
コンビニの駐車場で検索した
帰り道、気づいたらコンビニの駐車場に車を止めていた。
スマホで検索した。
膀胱の腫瘍……95パーセントがガン
画面を閉じることができなかった。
しばらくそのままコンビニの駐車場に座っていた。エンジンもかけずに。
コンビニから家に着くまで、どの道を通ったか覚えていない。
その夜、また検索した
家に帰って、看護師の娘に説明した。
娘の反応は「そうなんだ〜」という感じだった。
看護師だから、パニックにならないのはわかる。でもこっちはパニックだ。
その夜、またスマホで検索した。
膀胱がんになりやすい人 タバコを吸う人。高齢者。男性。
……どこにも当てはまらない。
タバコは吸わない。52歳、まだ高齢者じゃない。女性だ。
添加物を避けて、無農薬の野菜を食べて、運動だってしている。がん保険まで解約したくらい、自分は大丈夫だと思っていた。
なのに、なぜ私が。
この無限ループ
答えは出なかった。
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がんは「自分は大丈夫」という自信を、軽々と裏切る。
タバコも吸わない。お酒も飲まない。それでも、腫瘍はできた。
元気なうちにしか、保険には入れない。
検査中・治療中は告知義務があるから、もう私には選択肢がない。
頭の中がぐるぐるした
頭の中でいろんなことが、次々と迫ってきた。
- いくつまで生きられるんだろう
- 仕事はどうしよう。担当している利用者さんは?引き継ぎは?
- オハナさん(母)の介護は、誰がやるんだろう
- 神宮球場、行けなくなるかな
そう言えば最近、体が重い気がする。あれも症状だったんだろうか。気のせいだと思っていたけど。
ぐるぐると、止まらない。
がんかどうかも、まだわからない。「否定するための検査」と先生は言った。でも95パーセントという数字が、頭から離れない。
翌日、病院に電話を入れた
翌日、紹介された大きな病院に電話を入れた。
とにかく早く診てもらいたかった。早く手術して、早く取ってしまいたかった。
でも電話しながら気づいた。
手術をしても、結果がわかるのはそこからさらに2週間後なのだ。
腫瘍を取って、検査に出して、結果が出るまで2週間。
その間もずっと、この不安を抱えたまま待つのか。95パーセントという数字を頭の隅に置いたまま、普通に仕事をして、オハナさんの介護をして、ご飯を食べて、眠るのか。
……そんなの、待てない。
でも待つしかない。
電話口で予約を入れながら、そんなことを考えていた。
次回:大きい病院へ。「なるべく早く」と願いながら、予約の日を待つ。



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