認知症の親は室内でも脱水に|ケアマネの私が変えた5つの対策

オハナさんとの日常

エアコンのリモコンは、母の手が届かない場所に隠してあります。

それでも母は、真夏に長袖の上からダウンジャケットを着ていました。

気がついたときには顔が真っ赤で、体温は37度台。ケアマネジャーを20年やってきて、仕事では何度も「熱中症に気をつけましょう」と説明してきた私が、自分の母の異変に気づけませんでした。

「家にいるから大丈夫」その思い込みが、いちばん危なかったのだと思います。

室温だけを見て安心してはいけませんでした。母の場合は、真夏の厚着と水分不足が重なったことが大きかったと考えています。

受診した結果、医師の診断は「軽い脱水」でした。

エアコンのきいた室内で、厚着をしたまま水分が足りていなかった状態です。

わが家では、このまま気づかなければ熱中症につながりかねない危険な状態だったと受け止めています。

この記事では、認知症の母(オハナさん・89歳・要介護2)が受診したときの様子と、

そのあとわが家が実際に変えた5つのことを、全部書きます。

エアコンはついていた。それでも母は厚着をしていた

その日、室温は下げてありました。リモコンも隠してあります。

エアコンを消される心配はない、と思っていました。

なのに母は、長袖の上にダウンジャケットを着込んでいたのです。

おかしいと思ったのは、顔でした。

  • 顔が真っ赤で、触ると熱い
  • 体温は37度台
  • だるさを訴えている
  • でも意識はしっかりしていて、話も普通にできる
  • そして「暑い」とは一言も言わない

母は、むしろ平気な顔をしていました。

この「元気に見える」「本人が平気そうにしている」が、いちばん判断を遅らせます。

認知症の親が「暑い」と言えなくなる理由

高齢になると、暑さや喉の渇きを感じにくくなり、体温を調節する力も低下します。

高齢者は体内に熱がこもりやすいため、本人が「暑い」と言わなくても注意が必要です。

環境省も、加齢によって暑さや喉の渇きを感じにくくなり、体に熱がたまりやすくなると説明しています。

実際、母は夏でも「寒い」と言うことがあります。

感覚が季節と合わなくなっているのだと思います。

そこに認知症が加わると、こうなります。

  • 暑さを感じても、「暑い」という言葉に変換できない
  • 不快なのは分かるが、何が不快なのか説明できない
  • 服を脱ぐ・着るという判断が、季節と結びつかない
  • 水分を飲んだこと自体を忘れてしまう

本人が暑さを感じていなくても、体内には熱がこもり、水分は失われていきます。

だから本人はケロッとしているのに、体の中では水分が減っていくことがあります。

「喉が渇いたら飲もう」では間に合わない

もうひとつ、大事なことがあります。

高齢になると、体の水分が減っていても喉の渇きを感じにくくなります。

そこに認知症が加わると、こうなります。

  • 体は水分を必要としている
  • でも「喉が渇いた」という感覚が起きにくい
  • 起きても、それを言葉にして家族に伝えられない

つまり、本人が「お茶がほしい」と言うのを待っていたら、間に合いません。

だから家族側からの声かけと、手の届く場所に飲み物を置く環境づくりが必要になります。

ここが、認知症の方の水分補給でいちばん大事なところです。

そして結論はこうなります。

本人が平気そうにしていることは、安全のサインになりません。

※室温や湿度の目安、水分のとり方については、環境省の「熱中症環境保健マニュアル」に具体的な内容が示されています。数字はご家庭で判断せず、こうした資料を確認してください。持病で水分制限がある方は、医師の指示が優先です。
参考:環境省「熱中症環境保健マニュアル」

かかりつけ医を受診して、はじめて分かったこと

意識はある。元気もある。でも、だるさと微熱がある。

私はこれで「まずい」と思い、かかりつけ医を受診しました。

正直に書きますが、ケアマネを20年やっている私でも、自分では判断できませんでした。

高齢者の37度台の発熱とだるさは、水分不足だけでなく、誤嚥性肺炎や尿路感染など別の原因でも起こります。しかも、それらは外から見ただけでは見分けられません。だから受診したのです。

結果はこうでした。

  • 血液検査では、炎症反応にも白血球にも異常なし
  • 診察の結果、肺炎や感染症を疑う所見は認められなかった
  • 医師からの説明は「軽い脱水」

「受診して、検査をして、はじめて分かった」——この順番が大事だと思っています。

医師に言われて、私の対策が変わった一言

とにかく水分をとってください。経口補水液やアクエリアスのように吸収のいいものもいいけれど、本人がいちばん好きな飲み物でかまいません。

飲まない完璧より、飲める妥協。プロが言ってくれると、ずいぶん気が楽になります。

【注意】持病がある方は必ず確認を

「好きな飲み物でいい」は、母の状態を診たうえでの説明です。糖尿病、腎臓の病気、心臓の病気、水分制限の指示が出ている方には当てはまりません。栄養士としても言い添えておきますが、甘い飲み物を毎日たくさん飲む前に、必ず主治医やケアマネ、管理栄養士に確認してください。

わが家が変えた5つのこと

受診したその日から変えたことを、5つ書きます。

① 長袖と上着を、袋に入れてクローゼットの奥にしまった

認知症の方に「暑いから脱いで」と説得するのは、かなり大変です。本人は暑いと思っていないので、話がかみ合いません。

だから説得をやめました。手の届く場所から消したのです。

  • 長袖と上着はまとめて袋に入れる
  • クローゼットのいちばん奥へ
  • 手前には薄手のものだけを置く

温度を管理するのではなく、服を管理する。これがいちばん効きました。

② 訪問看護に報告した

家族だけで抱えないことです。

訪問看護に報告しておけば、次の訪問で脱水のサインを専門職の目で見てもらえます。

  • 体重の減り
  • 皮膚の張り
  • 尿の量や色

ケアマネの立場から言っても、専門職への共有がいちばん早い安全網です。デイサービスを利用している方なら、送り出しのときに一言伝えるだけでも、その日の見守りが変わります。

③ 氷が溶けにくいタンブラーを用意した

ここは正直、買ってよかったです。

朝入れた氷が、夜22時まで残っていました。

なぜこれが大事かというと、母は、ぬるくなった飲み物をほとんど飲まないからです。コップに入れて置いておいても、30分でぬるくなって放置される。これを何度も繰り返してきました。

選ぶときの条件は4つです。

  • 保冷力が高い(ステンレス真空二重構造)
  • ストロー付きで、顔を上げずに飲める
  • 密封型で、倒してもこぼれない
  • 容量は900ml前後

わが家はこの条件で選びました。↓

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※ストローは、むせやすい方には向かないことがあります。飲み込みに不安がある方は、必ず主治医や言語聴覚士、訪問看護に相談してください。

④ 中身は経口補水液ではなく、カルピスにした

母がいちばん好きなのは、甘いカルピスです。

医師の言葉どおり、経口補水液ではなくカルピスを入れました。結果、900ml、飲みきりました。

経口補水液を用意して一口で終わるより、カルピスで900ml飲めるほうがいい。介護は理想どおりにいかないので、続くほうを選びます。

もちろん、常備しておく意味では経口補水液やゼリー飲料も用意しています。食欲が落ちたときは、飲むより「食べる水分」のほうが入ることもあります。

⑤ 本人が好きな水色を選んだ

これは地味ですが、大事なポイントでした。

  • 好きな色だと「自分のもの」と認識しやすい
  • 目に留まるので、自分から手を伸ばす
  • 密封型なので、テーブルの端でも枕元でも置いておける

定位置を決めて、そこに置くようにしました。

900mlのタンブラーで、飲んだ量が見えるようになった

これは買ってから気づいたことです。

介護をしていて、いちばん分からないのが「今日、何ml飲んだか」です。

コップだと分かりません。何回飲んだか覚えていないし、本人に聞いても「飲んだ」と言うだけです。

でも900mlのタンブラーなら、こうなります。

  • 朝、いっぱいに入れる
  • 夜、残りを見る
  • どれくらい減ったか、一目で分かる

氷も入っているので厳密な摂取量ではありませんが、コップで何度も渡すより、1日にどれくらい飲めたのかをおおよそ把握しやすくなりました。訪問看護にも「今日は8割くらい減っていました」と伝えられます。

道具を変えただけで、目安が持てるようになりました。

夜中に起こして飲ませる?わが家が選んだ方法

高齢者の熱中症は、屋外だけで起こるものではありません。住居内でも起こります。夜間も、リスクはあります。

では、夜中に起こしてまで水分をとらせるべきなのか。

わが家は、定期的に起こして飲ませる方法は選びませんでした。

理由はこうです。

  • 夜中に起こすと、本人が混乱する
  • トイレの回数が増える
  • 介護者が眠れない
  • 眠れないと、翌日が崩れる

私が現場で見てきた範囲でも、夜間に定期的に起こして水分をとらせることが基本になっている、という場面は多くありません。

【注意】これはわが家の選択です

すべての高齢者に当てはまる正解ではありません。脱水の程度、発熱の有無、持病、飲み込みの状態、医師からの指示によって、必要な対応は変わります。心配なときは、自己判断せず主治医や訪問看護、担当のケアマネに相談してください。

そのうえで、わが家は夜を「守る時間」と決めました。代わりにやっているのが、次の4つです。

日中と寝る前にしっかり飲んでもらう

900mlのタンブラーが効きます。夜に持ち越さない量を、明るいうちに入れておく。

密封型を枕元に置く

倒れてもこぼれないので、枕元に置けます。夜中に目が覚めたとき、本人が自分で飲めます。朝まで冷たいままです。

※寝ぼけたままストローで飲むのは、むせやすい方には向きません。ここは無理をしないでください。

室温は27度設定+温湿度計をベッドサイドに置く

ここで、多くの人が誤解していることを書いておきます。

28度というのは「エアコンの設定温度」ではなく「室温」の目安です。

設定を28度にしても、部屋の温度が28度になっているとは限りません。日当たり、部屋の広さ、風の通り方で全然違います。環境省も、温湿度計で実際の室温を確認することをすすめています。

だからわが家は設定27度にして、温湿度計で室温そのものを見ています。

そして置き場所も大事です。設置する場所によって、表示される温度は変わります。壁の高い位置ではなく、寝ている本人の近くに置いてください。わが家はベッドサイドです。

寝具も夏物に入れ替えた

昼にダウンを着る人が、夜に冬の布団をかぶらない保証はありません。服をしまったのと同じ発想で、寝具も入れ替えました。

パジャマは着心地のいいものを選んでおくのがコツです。快適だと、本人が脱ぎたがりません。厚着しがちな方には、先回りして「気持ちいい薄手」を着せておくほうが早いです。

そして冬用の毛布と布団は、上着と一緒にしまいました。

朝いちばんにやっていること

いまのわが家の朝は、この順番です。

STEP1 起きたら体温を測る

STEP2 すぐに冷たいカルピスを飲ませる

体温を測るのは、記録のためです。毎朝測っていれば、その人の平熱が分かります。平熱が分かっていないと、37度台が「いつもと違う」のかどうか判断できません。

寝ている間にも、呼吸や汗などによって水分は失われます。そのため、わが家では朝いちばんに冷たい飲み物を一杯すすめています。冷たいと、よく飲んでくれます。

夜は守りに入って、朝に確認する。介護を24時間完璧にはできないので、守れる時間帯をきちんと守るという考え方に変えました。

ケアマネとして、認知症の親を介護するご家族に伝えたいこと

「家にいるから大丈夫」は、成り立ちません。

エアコンをつけていても、リモコンを隠していても、認知症の方は厚着をします。そして「暑い」と言いません。元気そうに見えます。

現場にいると、熱中症は決して軽く済む病気ではないと分かります。搬送が必要なところまで重症化した方を見たこともあります。

でも同時に、冬物を夏にしまうだけで防げることもあるのです。

大がかりなことをしなくていい。

  • 長袖と上着をしまう
  • 冷たい飲み物を、手の届く場所に置いておく
  • 温湿度計で室温を実際に見る
  • 毎朝、体温を測る
  • 気になったら受診する

これだけで、かなり変わります。

私はケアマネを20年やっていて、それでも母の異変に気づくのが遅れました。だから、気づけなかったご家族を責める気持ちはまったくありません。

これは責める話ではなく、備える話です。

認知症になると、「暑い」と言えなくなることがあります。だから私たち家族が、本人の代わりに気づくしかありません。

同じ夏を、同じ思いをせずに越えられる方が一人でもいたら、この記事を書いた意味があります。

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